相続人の中に認知症の人がいる場合、不動産を売却できる?成年後見と手続きを解説
- 7月30日
- 読了時間: 7分

相続人の中に認知症の人がいる場合、不動産を売却できる?
相続した実家や土地を売却しようとしたところ、相続人の一人に認知症の診断があり、遺産分割協議や売買契約を進められるのか分からないことがあります。
認知症の診断があるだけで、すべての契約ができなくなるわけではありません。重要なのは、不動産の売却という具体的な行為について、本人が内容と結果を理解し、自分の意思で判断できるかです。
一方、本人が十分に理解・判断できない状態で、家族が代筆したり、本人名義の実印を使ったりして手続きを進めることはできません。適切な代理権がなければ、遺産分割協議や売買契約の効力が問題になります。
相続人や不動産の状況をまとめて整理したい場合は、相続不動産の整理・売却相談をご確認ください。
この記事の結論
相続人の中に認知症の人がいても、直ちに不動産を売却できなくなるわけではありません。
最初に確認するのは次の5点です。
対象不動産を認識しているか
自分が相続人・所有者であることを理解しているか
売却すると不動産を失い、代金を受け取ることを理解しているか
売却価格、費用、代金配分を理解しているか
協議書や契約書へ署名する意味を理解しているか
本人が十分に理解・判断できる場合は、本人の意思に基づき進められる可能性があります。
判断能力が不十分な場合は、家族が当然に代理人になるわけではありません。成年後見、保佐、補助などを利用し、家庭裁判所が選任した人が、与えられた権限の範囲で支援・代理します。
本人の居住用不動産を処分する場合は、家庭裁判所の許可が必要です。許可を得ずに処分した場合、その処分は無効となります。
認知症の診断と意思能力は同じではない
認知症の症状や進行度は人によって異なります。
日常生活に支援が必要でも、説明を受けて売却内容を理解できる人もいます。一方、普段の会話が成立していても、価格、費用、代金配分、契約後の影響まで理解することが難しい場合があります。
不動産売却では、名前や住所を言えるかではなく、契約の意味と結果を理解し、一貫した意思を示せるかが重要です。
医師の診断書は重要な資料ですが、それだけで売却可能・不可能が自動的に決まるわけではありません。司法書士や不動産会社は、本人との面談を通じて意思確認を行います。

家族が代筆・代理してはいけない理由
配偶者や子であっても、本人の財産を自由に処分する権限はありません。
本人の実印や印鑑証明書を保管していても、それだけで本人名義の遺産分割協議書や売買契約書へ署名できるわけではありません。
本人が形式上署名していても、契約内容を理解できない状態であれば、契約の効力が問題になります。買主、金融機関、司法書士も、後から無効となるおそれがある状態では手続きを進められません。
過去に作成した委任状がある場合も、委任内容、期限、対象不動産、現在も有効かを確認します。

成年後見・保佐・補助の違い
法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助に分かれます。
制度 | 判断能力の目安 | 不動産売却での考え方 |
後見 | 判断能力が欠けているのが通常 | 成年後見人が代理する |
保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 同意または代理権の確認が必要 |
補助 | 判断能力が不十分 | 必要な行為ごとに権限を定める |
任意後見 | 判断能力が十分な時に契約 | 監督人選任後に代理権が発生 |
成年後見人は、家族の希望ではなく、本人の利益を基準に判断します。申立時に家族を候補者として記載しても、家庭裁判所が専門職を選任する場合があります。
成年後見人を付ければ、必ず売却できるわけでもありません。本人の住居、売却の必要性、価格、代金の使途などを確認します。
遺産分割で利益相反が起きる場合
例えば、父が亡くなり、母と子が相続人となり、子が認知症の母の成年後見人を務めている場合を考えます。
子は自分自身の相続分を持つ一方、成年後見人として母の相続分を守る立場でもあります。この状態で子が母を代理して遺産分割協議を行うと、利益が衝突します。
その場合は、家庭裁判所へ特別代理人の選任を申し立てることがあります。保佐人・補助人の場合は、臨時保佐人・臨時補助人を選任する場合があります。
本人の取得分を法定相続分より大幅に少なくする分割は、本人に不利益となる可能性があるため、慎重に扱われます。
相続人が多い場合の合意形成は、相続人が多い不動産を売却するまでの進め方もあわせてご覧ください。
本人の居住用不動産を売却する場合
成年後見人、保佐人、補助人が本人に代わって居住用不動産を処分する場合は、家庭裁判所の許可が必要です。
居住用不動産には、現在住んでいる家だけでなく、施設入所前の自宅、入院前の家、将来戻る可能性がある家なども含まれる場合があります。
処分には、売却だけでなく、抵当権設定、賃貸借契約の締結・解除、建物の取壊し等も含まれます。
家庭裁判所では、売却の必要性、価格、本人の意向、今後の住居、売却代金の使途・管理方法などを確認します。

成年後見を申し立ててから売却するまで
1.判断能力と制度の必要性を確認する
医師の診断書や本人の状態を確認し、後見、保佐、補助のどれが必要かを専門家へ相談します。
2.家庭裁判所へ申立てを行う
申立書、診断書、財産資料、親族関係資料などを準備します。家庭裁判所が本人の状態や財産、候補者の適否を確認します。
3.成年後見人等が選任される
選任された人が、本人の財産状況と不動産の扱いを確認します。遺産分割で利益相反があれば、特別代理人等を検討します。
4.売却条件を整理する
査定、境界、越境、私道、接道、未登記建物、残置物、抵当権などを確認し、価格と条件を整理します。
私道や接道条件は私道の整理・売却相談、空き家管理や残置物は空き家・古家・老朽化物件の相談をご確認ください。
5.必要な許可を得て契約・決済する
本人の居住用不動産に当たる場合は、家庭裁判所の許可を得てから処分します。許可と相続登記の見込みを確認し、売買契約・決済を進めます。

よくある質問
認知症と診断されたら必ず成年後見人が必要ですか?
必ず必要とは限りません。本人が売却内容を理解・判断できるかを個別に確認します。
家族が本人の実印を押せば進められますか?
適切な代理権がなければ進められません。家族による代筆や押印は、契約や登記の効力が問題になります。
成年後見人に家族を指定できますか?
候補者として記載できますが、誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。
成年後見人が選ばれれば、すぐ売却できますか?
すぐ売却できるとは限りません。本人の利益、売却の必要性、価格、住居、利益相反、居住用不動産の処分許可などを確認します。
施設へ入所している自宅も許可が必要ですか?
入所前に住んでいた家や、将来戻る可能性がある家は、居住用不動産に該当する場合があります。家庭裁判所へ確認します。
まとめ
相続人の中に認知症の人がいても、直ちに不動産売却ができなくなるわけではありません。
まず本人が売却内容と結果を理解・判断できるかを確認します。判断能力が不十分な場合は、家族の代筆ではなく、成年後見、保佐、補助などの制度を利用します。
遺産分割で利益相反が起きる場合や、本人の居住用不動産を売却する場合は、家庭裁判所の手続が必要です。同時に査定や物件調査を進め、許可後に売却できる状態を整えておくことが大切です。
認知症の相続人がいる不動産の進め方に迷っている方へ
さくら都市デザイン株式会社では、相続登記前の段階から、査定、現地・役所調査、境界、私道、未登記建物、空き家管理などを整理します。
必要に応じて司法書士、弁護士等と連携し、成年後見制度や家庭裁判所の手続を踏まえた売却条件をご案内します。
関連記事
遺産分割協議が終わっていない不動産は売却できる?
あわせて確認したい相談ページ
参考文献・公的資料
裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」
裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産処分許可の申立書」
法務省「法定後見制度について」
裁判所「成年後見制度」
※判断能力、代理権、利益相反、処分許可の要否は個別事情で異なります。公開時点で最新情報を確認してください。




コメント