相続した不動産を一人が取得し、ほかの相続人へ現金を支払う方法
- 7月31日
- 読了時間: 8分

親から相続した実家を長男が住み続ける、事業用の土地を後継者が引き継ぐなど、不動産を売らずに一人へまとめたい場面があります。しかし、遺産の大部分が不動産であれば、ほかの相続人が何も受け取れず、不公平感が生じやすくなります。
このようなときに使われるのが、不動産を一人が取得し、その人がほかの相続人へ現金などを支払う「代償分割」です。共有名義を避けながら相続人間の取得額を調整できますが、代償金を払えること、不動産の評価と支払条件に全員が合意することが前提です。
不動産の価格だけを先に決めるのではなく、預貯金や債務を含む遺産全体、各相続人の希望、取得者の資金力を順に整理します。合意後は、誰がどの不動産を取得し、誰へいくらをいつ支払うかを遺産分割協議書へ具体的に記載します。
この記事の結論
一人が相続不動産を取得し、ほかの相続人へ現金を支払う方法を「代償分割」といいます。
不動産の評価額だけでなく、預貯金・債務を含む遺産全体と各相続人の取得割合から代償金を検討します。
取得者、代償金額、支払期限、分割払いの条件を協議書へ明記し、取得者の支払能力と税務上の扱いも確認します。
代償分割とは
代償分割は、特定の相続人が相続財産を取得する代わりに、その人自身の現金などをほかの相続人へ渡して調整する方法です。たとえば長男が実家を取得し、長女へ代償金を支払う形が該当します。
不動産を細かく共有せずに済むため、居住や管理、将来の修繕・売却の意思決定を一本化しやすい点が利点です。一方、相続人全員の合意と取得者の資金が必要であり、不動産評価への認識が違うと金額がまとまりません。
不動産を売却して現金を分ける換価分割や、複数人で持分を取得する共有分割とは、資金の出所と相続後の権利関係が異なります。残したい理由と将来の維持費まで含めて比較します。
代償金を決める基本手順
1.遺産全体と相続人を確定する
まず戸籍、遺言書、財産資料を集め、法定相続人と遺産の範囲を確認します。不動産だけでなく、預貯金、有価証券、生命保険金の扱い、借入金、未払税金なども一覧にします。
不動産だけを法定相続分で計算しても、別の相続人が預貯金を多く取得すれば、必要な代償金は変わります。葬儀費用や立替金など、遺産そのものとは別に精算する項目も混同しないよう分けて記録します。
2.不動産の評価方法を決める
不動産には固定資産税評価額、相続税評価額、地価公示・基準地価、実際の売却可能額など複数の見方があります。代償分割で必ず一つの評価方法を使うという決まりはありませんが、相続人全員が納得できる基準で合意する必要があります。
居住を続ける人は低い評価を、現金を受け取る人は市場価格に近い評価を希望しやすいため、複数の不動産会社の査定や不動産鑑定士の鑑定を利用し、基準日と前提条件をそろえます。査定額は売却保証額ではない点にも注意します。
3.各相続人の取得額から代償金を計算する
例として、遺産が評価4,000万円の実家と預貯金1,000万円、相続人が兄と妹の2人で取得割合が2分の1ずつなら、各自の目安は2,500万円です。兄が実家、妹が預貯金を取得する場合、兄から妹へ1,500万円を支払えば、取得額を2,500万円ずつに調整できます。
実際には特別受益、寄与分、債務、立替費用、遺言の内容などで計算が変わります。法定相続分どおりにする義務はなく、全員が合意すれば異なる配分も可能ですが、計算根拠は書面で共有しておくと後の認識違いを防げます。

協議前に確認したい5項目
確認項目 | 確認する内容 |
取得する不動産 | 所在地、地番・家屋番号、現況、登記名義、ローンの有無 |
評価と基準日 | 採用する評価方法、査定・鑑定、価格時点 |
遺産全体 | 預貯金、有価証券、債務、ほかの不動産 |
代償金の条件 | 受取人、金額、期限、一括・分割、振込先 |
資金と維持費 | 自己資金、融資可能性、税金、修繕・管理費 |
代償金を用意する方法
自己資金だけで不足する場合、金融機関へ相続・住宅関連の融資を相談する、ほかの相続財産を取得額の調整に使う、支払期限を設けて分割払いにするなどの方法があります。融資は年齢、収入、担保評価、既存借入によって利用できないこともあるため、合意前に見通しを確認します。
分割払いにする場合は、回数、各回の金額、振込日、遅延時の扱い、必要に応じて担保や連帯保証をどうするかを専門家と検討します。「後で払う」という口約束だけで不動産の名義を移すと、未払いが起きたときに家族間の紛争が深刻になります。
どうしても資金を確保できない場合は、一部の土地を分筆して売る、不動産全体を売却して代金を分ける、一定期間共有して準備期間を設ける方法もあります。ただし、共有を暫定策にすると固定資産税や修繕費の負担で再び対立しやすいため、期限と出口を決めます。

遺産分割協議書へ明記する内容
相続人全員の合意ができたら、遺産分割協議の内容を書面にします。不動産の表示、取得する相続人、代償金を支払う相手、金額、期限、支払方法を明確にし、全員が署名して実印を押印するのが一般的です。
単に「長男が実家を相続する」とだけ記載すると、ほかの相続人へ渡す現金が遺産分割による代償金なのか、後日の贈与なのかが分かりにくくなります。代償分割であることと支払条件を一つの協議書内で対応させます。
協議成立後は、不動産を取得する人への相続登記を行います。2024年4月から相続登記は義務化されているため、正当な理由なく期限を過ぎないよう、戸籍・評価証明書・協議書など必要書類を司法書士へ確認します。

税務上の注意点
遺産分割協議書に基づき、相続分の調整として適正な代償金を支払う場合、通常は受取人への単純な贈与とは区別されます。ただし、遺産総額や取得割合に比べて金額が不自然に大きい場合、協議書に代償分割の記載がない場合などは、贈与税の問題が生じる可能性があります。
代償金の支払いのために取得者が相続不動産を譲渡した場合は、譲渡所得税の検討も必要です。また、相続税申告では代償金を支払う人と受け取る人で課税価格の計算が異なります。相続税の申告期限は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内のため、税理士へ早めに確認します。
避けたい対応
固定資産税評価額だけを当然の代償金基準として押し切る
代償金を用意できるか確認せず、一人の取得だけ先に合意する
口約束のまま相続登記を行い、支払期限を決めない
代償金と贈与、立替費用の精算を同じ振込で処理する
相続税の申告期限が迫ってから評価や資金調達を始める
よくある質問
Q.代償金は法定相続分どおりでなければいけませんか?
A.相続人全員が合意すれば、必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありません。ただし、特定の人だけが著しく多く受け取る場合は、贈与税や遺留分への影響を税理士・弁護士へ確認します。
Q.不動産の評価額は固定資産税評価額でよいですか?
A.全員が納得すれば採用できますが、市場価格との差が大きいことがあります。売却査定や鑑定も比較し、どの価格・基準日を使うかを合意してください。
Q.代償金を分割払いにできますか?
A.全員の合意があれば可能です。回数、期限、遅延時の扱いを協議書へ明記し、支払いを担保する方法が必要か専門家と検討します。
Q.代償金を払えなくなったら不動産を返すのですか?
A.未払いだけで自動的に遺産分割が元へ戻るとは限りません。協議書の内容に基づく請求や担保の実行などが問題になるため、成立前に支払可能性と未払い時の対応を決めます。
まとめ
相続した不動産を一人が取得し、ほかの相続人へ現金を支払う代償分割は、実家や事業用不動産を残しながら共有を避ける方法です。ただし、不動産評価への合意と、取得者が実際に代償金を支払えることが欠かせません。
戸籍と遺産全体を確認し、不動産の評価基準、各相続人の取得額、代償金の支払条件を整理します。合意内容は遺産分割協議書へ明記し、相続登記、相続税、贈与税の扱いを司法書士・税理士へ確認してください。資金不足がある場合は、分割払い、融資、換価分割を比較し、未払いを生む無理な計画にしないことが重要です。
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参考文献・公的資料
※不動産評価、相続分、代償金、税務上の扱いは個別事情により異なります。弁護士・司法書士・税理士へご確認ください。




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