遺産分割協議前の不動産は売却できる?相続人全員で売る方法と注意点
更新日:9月7日
相続した実家や土地を売却したいものの、「まだ誰が不動産を相続するか決まっていない」「兄弟姉妹の話し合いが終わっていない」ということがあります。
このような未分割の状態でも、不動産会社へ相談し、査定や物件調査を進めることはできます。
ただし、遺産分割協議が終わっていないからといって、相続人の一人が自分の判断だけで不動産全体を売却できるわけではありません。
遺言などで取得者が決まっていない場合、相続財産である不動産は複数の相続人が関係する状態になります。不動産全体を売却するには、相続人を確定し、全員で売却するのか、一人が取得してから売却するのかなど、売主と登記の方法を整理する必要があります。
この記事では、遺産分割協議が終わっていない不動産について、今できること、不動産全体を売るための方法、相続人全員が売却に賛成している場合の進め方、協議がまとまらない場合の対応まで解説します。
この記事の結論
遺産分割協議が終わっていなくても、査定・現地調査・役所調査・境界や建物状態の確認など、売却判断に必要な準備は進められます。
一方、不動産全体を実際に売却する段階では、原則として関係する相続人全員の意思を整理し、売主となる人を明確にして、必要な相続登記を行います。
進め方は、大きく次の2つです。
相続人全員で不動産を売却する
遺産分割で一人が不動産を取得し、その人が売却する
「最終的には売却したい」という方向性が決まっている場合でも、先に誰か一人の名義へ変更すればよいとは限りません。売却代金をどのように分けるかまで含めて、遺産分割協議書・相続登記・税務上の扱いを確認してから進めることが大切です。

遺産分割協議前の不動産は誰のもの?
遺言書などで不動産の取得者が決まっていない場合、相続開始後の遺産は共同相続人が関係する状態になります。
そのため、「自分も相続人だから」「固定資産税を自分が払っているから」という理由だけで、一人が不動産全体を自由に処分することはできません。
まず確認したいのは、誰が法定相続人なのか、遺言書があるのか、すでに遺産分割について合意した書類がないかという点です。
相続人が複数いる場合、不動産だけを先に分けようとすると話し合いがまとまりにくくなることがあります。預貯金、有価証券、借入れなども含めた遺産目録を整理し、遺産全体で誰が何を取得するのかを考えることが重要です。
相続人の一人だけで不動産全体を売却できる?
相続人の一人だけで、不動産全体を単独で売却することはできません。
一人が代表して不動産会社へ査定を依頼したり、売却条件を確認したりすることはできます。しかし、他の相続人の意思が確認できていない状態で「売却します」と買主へ確約し、手付金を受け取るような進め方は避けるべきです。
相続人全員が売却に賛成している場合でも、次の点を整理します。
相続人全員が確定しているか
売却について全員の意思が一致しているか
誰が売買契約の当事者になるか
どの方法で相続登記を行うか
売却代金をどのように分配するか
固定資産税、測量費、残置物処分費などを誰が負担するか
相続人の一人が代表して手続きを行う場合は、委任状の内容や本人確認書類などを買主側の司法書士とも確認します。
遺産分割協議前に法定相続分で登記すれば売却できる?
遺産分割協議が終わっていなくても、法定相続分に基づく相続登記を行うことができる場合があります。この場合、不動産は相続人による共有名義になります。
ただし、共有名義にしたからといって、一人だけで不動産全体を売却できるようになるわけではありません。不動産全体を売るには共有者全員の協力が必要です。
共有登記後は、各共有者が自分の共有持分だけを処分できる場合があります。しかし、持分だけの売却は買主が限られ、不動産全体を売る場合より価格条件が不利になりやすい傾向があります。
最終的に不動産全体を売る方針なら、「とりあえず法定相続分で共有名義にする」のか、「遺産分割で取得者を決めてから登記する」のかを先に比較した方がよいでしょう。
相続登記の期限や放置リスクについては、相続登記しないとどうなる?放置するリスクと今から行う手順もあわせてご確認ください。
不動産を売却して代金を分ける「換価分割」という方法
相続人の誰も不動産を取得する予定がなく、「実家を売って現金で分けたい」という場合には、換価分割という方法があります。
換価分割は、不動産などの遺産を売却し、その売却代金を相続人間で分ける方法です。
不動産を物理的に分ける必要がなく、現金で分配できるため、相続人全員が売却を希望しているケースでは検討しやすい方法です。
ただし、実際の売却では、誰の名義で相続登記をするのか、誰が売主として契約するのか、売却費用をどう負担するのか、売却代金をどう分配するのかを先に決めておく必要があります。
代表者一人の名義で売却する形を取る場合などは、遺産分割協議書の記載方法や税務上の扱いについて、司法書士・税理士などへ確認してから進めます。
相続人全員で売る方法と、一人が取得して売る方法
進め方 | 特徴 | 主な確認事項 |
相続人全員で売却 | 共有登記などを行い、全員が売主として売却する方法 | 全員の契約・決済への関与、委任、売却代金の分配 |
一人が取得して売却 | 遺産分割で一人が不動産を取得し、その人が売主になる方法 | 不動産評価、他の相続人への代償、協議書の内容 |
売却して代金を分ける | 換価分割として売却し、現金で分配する方法 | 登記方法、売主、費用負担、代金分配、税務 |
一人が不動産を取得し、他の相続人へ現金などを渡して調整する方法は代償分割と呼ばれます。
どの方法が適するかは、不動産だけでは決まりません。相続人の人数、預貯金など他の遺産、売却時期、取得希望者の資金力、相続税・譲渡所得税なども含めて比較する必要があります。

遺産分割協議が終わる前に進めてよい売却準備
遺産分割協議前だからといって、不動産について何も確認せず待つ必要はありません。
むしろ、売却価格や必要な費用が分からないまま協議をすると、「誰が相続するか」「売った方がよいか」という話が感覚的になりやすくなります。
査定を取って現在の市場価格を確認する
まず、現況のまま売却した場合の査定価格を確認します。
相続税評価額や固定資産税評価額と、実際の売却価格は同じではありません。不動産を一人が取得する場合の代償金について話し合う際にも、実際の市場価格を把握しておくことが判断材料になります。
売却に必要な費用を確認する
売却価格だけでなく、測量、残置物処分、解体、修繕、仲介手数料、登記費用なども確認します。
「5,000万円で売れそう」という情報だけではなく、「最終的にいくら残りそうか」を共有した方が、相続人同士で話し合いやすくなります。
道路・境界・建物の問題を確認する
相続した不動産には、境界未確定、越境、私道、未登記建物、接道、残置物、賃貸借など、売却を始めてから問題が分かることがあります。
このような問題は売却価格だけでなく、売却までの期間にも影響します。
「協議がまとまったらすぐ売れる」と考えていたものの、不動産側の調査で数か月必要になるケースもあるため、相続手続きと物件調査を並行して進めることが重要です。
協議前に確認しておきたい資料
資料 | 確認する内容 |
戸籍・法定相続情報一覧図など | 相続人の範囲 |
遺言書 | 不動産の取得者や遺言執行者の指定 |
遺産分割協議書 | すでに過去の合意がないか |
現在の名義、共有持分、抵当権など | |
固定資産税納税通知書・評価証明書 | 対象不動産、税額、評価額 |
公図・測量図 | 土地の形状、筆、境界確認の手掛かり |
売却査定 | 市場価格と売却条件 |
修繕・解体・残置物等の見積り | 売却前に必要となる可能性のある費用 |
すべての資料がそろっていなくても相談はできます。手元にあるものと「未確認」のものを分けておくと、次に何を確認すべきかが明確になります。
相続人全員が売却に賛成している場合の進め方
全員が「不動産は売る」という方向で一致している場合でも、次の順番で整理すると進めやすくなります。
相続人を確定する
不動産の名義と状態を確認する
査定を取り、売却価格・費用・期間を確認する
誰が売主になるか、どの方法で登記するか決める
売却代金の分け方と費用負担を決める
必要な遺産分割協議書・相続登記を整える
売買契約・決済へ進む
重要なのは、「全員が売却に賛成している」ことと、「売買契約を締結できる状態になっている」ことは別だという点です。
買主を見つける前に、相続登記に必要な書類がそろうか、遠方・海外在住の相続人がいるか、認知症・未成年・行方不明など別の手続きが必要な相続人がいないかも確認します。
故人名義のまま売却準備を進める場合の注意点は、相続した不動産の名義が故人のままでも売却できる?で詳しく解説しています。

遺産分割協議がまとまらない場合はどうする?
相続人同士で話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。
調停では、各相続人の希望、遺産の範囲、不動産の評価、分割方法などを整理し、調停委員を介して合意を目指します。
調停で話し合いがまとまらず不成立となった場合は、原則として審判手続に移行し、裁判官が事情を考慮して分割方法を判断します。
ただし、調停を申し立てれば不動産がすぐ売却できるわけではありません。解決までの間も固定資産税、管理、修繕、空き家の確認などは必要です。
そのため、法的な話し合いと並行して、不動産の査定や物件調査を進めておくと、調停・協議の中でも具体的な数字を提示しやすくなります。
売却を急いでいる場合に避けたいこと
相続税の納税、空き家の維持費、建物の老朽化などから、「早く売らなければ」と考えることがあります。
しかし、急いでいるときほど、相続人や登記の整理が終わる前に確定的な売買契約を先行させないことが重要です。
特に次の状態では、契約前に司法書士・弁護士等へ確認します。
相続人が確定していない
遺言書の内容を確認していない
一部の相続人と連絡が取れない
相続人の一人が売却に反対している
遺産分割の内容に争いがある
認知症・未成年・行方不明の相続人がいる
相続登記に必要な書類がそろうか分からない
先に行うべきなのは、「買主への約束」ではなく、売却価格・物件状態・必要期間を確認して、相続人が判断できる材料をそろえることです。

よくある質問
遺産分割協議書がなくても不動産会社へ相談できますか?
はい。査定や現地調査、売却条件の整理は可能です。相続人、現在の登記名義、遺言書の有無、協議状況など、分かる範囲で情報を共有してください。
相続人の過半数が売却に賛成すれば売れますか?
不動産全体の売却は、多数決だけで進めることはできません。原則として、不動産に権利を持つ相続人・共有者全員の協力が必要です。
相続人全員が売却に賛成なら遺産分割協議は不要ですか?
全員が共有者として売却する方法など、具体的な登記・契約方法によって必要な書類は異なります。誰が不動産を取得するか、誰が売主になるか、売却代金をどう分配するかを先に司法書士等と整理してください。
兄弟の一人だけが実家を取得して売却できますか?
相続人全員の遺産分割協議でその一人が不動産を取得することに合意し、相続登記を行ったうえで売却する方法があります。他の相続人との代償金や、売却後に代金を分ける場合の協議書・税務も確認します。
協議中に買主を探すことはできますか?
査定や購入希望条件の確認はできます。ただし、取得者や売主が確定していない段階では、確定的な契約条件を約束する前に弁護士・司法書士・不動産会社で進め方を確認してください。
BOOK

『自分の不動産が“厄介”になった時に読む本』
底地・借地権、共有持分、相続、空き家など、売りたいと思っても簡単には話が進まない不動産があります。 本書では、実際の相談・調整事例をもとに、複雑な不動産をどのように整理し、解決へ進めていくのかを紹介しています。
著者:櫻井佑樹
さくら都市デザイン株式会社 代表取締役・宅地建物取引士
まとめ|協議が終わるまで待つのではなく、売却の判断材料を先にそろえる
遺産分割協議が終わっていない不動産でも、査定や現地・役所調査など、売却に向けた準備は進められます。
一方で、不動産全体を売却するには、相続人を確定し、全員で売るのか、一人が取得して売るのか、換価分割にするのかを整理し、必要な相続登記を行う必要があります。
遺産分割で意見が分かれている場合も、まず「不動産はいくらで売れそうか」「売却までにどのくらい費用と時間が必要か」「残した場合はいくら維持費がかかるか」を数字にすると、話し合う論点を整理しやすくなります。
売却を急ぐほど、先に買主を決めるのではなく、相続人・名義・物件状態・必要期間を確認してから進めることが重要です。
遺産分割前の相続不動産を整理したい方へ
さくら都市デザインでは、遺産分割協議が終わっていない段階でも、相続した実家・土地・空き家などの査定、現地・役所調査、境界、私道、建物状態などを確認し、相続人間の判断材料を整理しています。
「兄弟で売却するか決まっていない」「誰が相続するか決める前に価格を知りたい」「相続人全員は売却に賛成しているが、進め方が分からない」という段階でもご相談いただけます。
登記・遺産分割の法的手続きが必要な場合には、司法書士・弁護士等へ確認しながら、不動産側の整理を並行して進めます。
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